聞きに来てくれた方々、バザールカフェさん、広報手伝ってくれた方々ありがとうございました。実はいつも2、3人しか集まらないので、今回10人以上が来てくれてとても嬉しかったです。
〇振り返り
今回は、私が毎年訪れているフィリピン・マニラの貧困地域やストリートチルドレンについて写真をたくさん使いながら話しました。
実際にゴミ山や川沿いのスラムの中に入ると、私たち日本人の多くは、人々の活気や住民同士の仲の良さに驚き、むしろ羨ましいとさえ感じます。私自身今でもフィリピンへ行く度にそう感じます。しかし、彼らの生活の実態にもう一歩踏み込むと、そうしたことは彼らの生活の一側面でしかないことがわかります。
スラムやゴミ山で暮らす人々の平均的な収入は、日本円で一日500円~1000円程度です。これで大家族が食べていかなければなりません。一日3食を食べられたとしても、インスタント麺のスープを家族で分けて白ご飯のおかずにしたり、子どもはスナック菓子で空腹を満たしたりしています。また食事を優先すれば、その他の生活必需品である、衣類や電気、子どもの教育費などが払えなくなり、子どもは学校に行けず、夜は電気がなく真っ暗な中で過ごさなければなりません。
スラムの多くには下水設備がなく、トイレや風呂と呼べるようなものもありません。排泄物や生活排水は家の周りに垂れ流している状態です。汚染された川のすぐ側やゴミに囲まれた住居は、衛生的に劣悪そのものです。「人として最低限の・・・」というのが人権であるならば、彼らの状況は、最低限のラインからずっとずっと下の方にあり、人権のほとんどを奪われている状態と言えます。
ストリートチルドレンについては、私が2014年に半年間マニラに滞在した時に実際に出会ったストリートチルドレンたちの3ケースについて話しました。
当時4歳と5歳のジェイビーとジュンジュンという兄弟は、父親が早朝から深夜までゴミ拾いしている間、物乞いをして暮らしていました。ある日ジェイビーが高熱で大量の汗をかき、震えながら路上にうずくまっていたことがありました。兄のジュンジュンも近くにはおらず、私も解熱剤を飲ませしばらく横で見守っていることしかできませんでした。すぐ近くには大音量の音楽がかかり、ネオンがキラキラしたバーやレストランがあり、お金を持った人々が楽しそうに食事をしていましたが、ジェイビーに気を留める人はいませんでした。今まで私がフィリピンで見た地獄絵図の一つでした。幸い翌日にはジェイビーの熱は下がり、順調に回復しました。それから2年後の2015年に、お父さんは薬物使用で逮捕され、2017年に刑務所内で病死したそうです。また兄のジュンジュンは政府の青少年居住施設に入所しており、現在ジェイビーは10歳で、今は1人で路上暮らしをています。
(補足)
さて今回は、フィリピンの貧困の現状について少しでも具体的なイメージを持ってもらうというのが一番の目的でした。どうだったでしょうか?伝えきれなかったことはいっぱいあるのですが、重要なことをいくつか補足します。
まず近年のフィリピン社会の大きな背景として、フィリピンでは先進国同様、もしくはそれ以上に経済成長至上主義の政策が進められています。そしてそれは急激な都市化として貧困層の暮らしを直撃しています。高いままの人口増加率と地方から都市への急激な人口移動は、スラムの飽和と路上生活者を急増させ、また商業施設建設の開発や美化政策、渋滞緩和政策によってスラムや露天商の立ち退きも進められ、貧困層の暮らしはますます厳しくなっています。こうした変化は、一言で言えば、途上諸国社会は先進諸国社会の鏡だと私は考えています。このことについての具体的な話は二回目以降になります。
二つ目は、今回紹介したスラムやゴミ山、路上で暮らす人々というのは、貧困層の中でも最貧困層と言える人々ということです。例えば、多国籍企業による労働者の搾取という問題で考えると、今回紹介した最貧困層の人々は、多国籍企業の労働者にすらなることができない人々と言えます。多国籍企業に限らず会社との雇用契約上の労働者というのは、賃金が一定であることや、年金や医療保険などの社会保障制度に加入できるなどの利点があります。一方、最底辺層の人々の仕事の多くは、ゴミ拾い、軒先の掃除、たばこや軽食などの売り歩き、駐車の手伝いなど、雇用契約のない日銭稼ぎの仕事(インフォーマル・ワーク)です。制度上、そうしたインフォーマルワークをする人々も社会保障に加入することは可能ですが、保険料や手続きの煩雑さなどによって実際には多くの人が未加入です。
決して多国籍企業で搾取される労働者の方が、インフォーマルワークをする最貧困層よりも恵まれている、ということではなく、あえて例えるなら前者は一日一食は食えるが、後者は一日一食食えるか分からない。という次元での差と考えてほしいです。
三つ目は、今回の発表では少ししか話せなかった、マニラ市によるストリートチルドレンの救済事業についてです。この事業は、夜10時以降に路上にいる18歳以下の子どもを車で半強制的に連行し、居住施設に収容するというものです。保護の名のもとに行われるこうした収容方法は、家族で路上生活をしている子どもの場合は、親の同意がないまま行われるので、知らない間に子どもが行方不明になった親はとても不安になります。実際、家族で路上生活をしている人たちは、この事業の対象にならないようになるべく子どもたちから目を離さないようにしていると言います。
また貧困により親の適切な保護や教育の欠如、栄養失調などの問題を抱えた子どもを心身ともにケアする場であるはずの居住施設では、予算の不足を理由に、スタッフ不足や“残飯”と呼ばれる粗末な食事、必要な医療の欠如、スタッフによる虐待など、刑務所や軍事訓練所などとも呼ばれる悲惨な環境であることが、NGOなどから指摘されていました。
今回紹介したストリートチルドレンのコーケイは、預かってもらうことになった基金団体の事務所で大人を見た時に、すぐ強ばった表情になり逃げだそうとしたのですが、それはコーケイも以前マニラ市の収容施設に預けられたことがあり、そこでスタッフから暴力を振るわれた経験があったからでした。コーケイの腕には大きなみみず腫れの痕があるのですが、それは施設から逃げ出した時に有刺鉄線で出来た傷でした。
四つ目は、補足というか伝え損ねたことです。まだ途上国の貧困の現場を実際に見たことがない人は、是非NGOのスタディツアーなどで途上国の貧困の現場を実際に見に行ってほしいということです。
私は初めてフィリピンに行き、川沿いのスラムを見た時に衝撃を受けたわけですが、それは、全く知らなかった物事を知ったからというよりも、むしろある種の既視感の中で、スラムの光景を見ていました。多くの人がそうであるように、私たちは世界には悲惨な貧困問題があることを、子どもの時から学校でも習い、新聞やテレビでも世界の貧困問題に関する光景を何度も見たことがあるはずです。なので、実際にフィリピンでスラムを見た時の衝撃というのは、今まで知識や情報としては知っていたことを、実際に自分の目で確認するということによって、初めて感じられる驚きだったのです。
(反省)
発表後のアンケート用紙で、発表の仕方についての指摘をいくつか頂きました。ストレートに「プレゼン力無さ過ぎ、パワポも素人臭い」と言ってくれた人もいました。たどたどしい話で、聞き苦しく思わせていたのは残念で申し訳ないです。正直、今までプレゼン力やパワポの作り方についてはほとんど気を使ってこなかったというか、向き合ってきませんでした。これからはそうしたことについても勉強や練習をしていきます。すぐに上達するとは思いませんが、頑張るのでよろしくお願いします。
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